機動戦士Zガンダム第8話「月の裏側」

●ナレーション

「それは、かって魂を持ったものかもしれない。
しかし今は、それが、神の国にたどり着くことはないだろう。
そこには、人と名乗る知的生命体が住む惑星があった。
人々は、ここで子を産み、育てることを、当たり前の事としすぎていた。」

土星の環から宇宙を漂流するジオン兵、コロニー内側から見た地球と月と、宇宙的な視点(?)で流れる映像に合わせたナレーション。最後の一文は初代ガンダムのナレーションを思わせます。
物語展開とは大して関係ないですが。このモチーフは劇場版のオープニングにてリメイクされます。


ティターンズ艦隊

月の表面に浮かぶようなアレキサンドリアと2隻のサラミス改。
月の巨大さと、それに対する宇宙戦艦のちっぽけさが素敵な対比です。

ここでアレキサンドリアの中にガルバルディが。ボスニアの残存機でしょうか。ジェリドはガルバルディに乗って出撃する気満々です。


アーガマ

前話ラストとは打って変わっていきなりキレているカミーユ
エマはこの日から保護観察が解けて正式なエゥーゴの一員に。
かまってほしくない不安定なカミーユと、カミーユニュータイプとして接してくるエマ。ここでもいまいちコミュニケーションがうまくいきません(こればっかり)。
アムロ・レイの記憶を話すエマ。カミーユにこの話がしたかったんだな、といった感じです。2年前の時点でアムロが「シャイアンの大豪邸」に住んでいたらしい事、そして宇宙に出られずに悶々としているのではないか、と語られます。

エマが「ガソリン車」と強調している車は、よく見ると20世紀初期のクラシックカーのようです。ガソリンで動く車自体がこの時代ではひどく珍しいのでしょう。
「じゃあシャアには会ってるんだ」とカミーユ。ていうかよくよく考えればクワトロ=シャアって察しはつくと思うんですが、ひどく驚くエマ。そしてそれをこっそり聞いているクワトロ。


●敵襲

ジェリドの役目は「ガルバルディのフル装備のバランスを確認する」、これに加えて「アーガマの追跡と潜伏場所の確認」です。前話の流れからいってジェリドがそれでおさまるはずもありません。はなっからライラを落としたガンダムMkⅡに弔い合戦を仕掛けます。おかげでアレキサンドリアアーガマを見失うのですが。
クワトロは紺のリックディアスに搭乗。
月面でのMS戦がちゃんと描かれるのって、ガンダムシリーズを通しても意外と少ないんじゃないか、Zは多いほうなんじゃないかと思います。

破壊されるビームライフル。細かい書き込み。

ニュータイプだってスーパーマンじゃないんだ!」
ジェリドの名言。
不慣れな月面とジェリドの気迫で、カミーユのMkⅡは右足を壊されライフルを失いピンチ。しかしクワトロに助けられます。

アーガマに帰ったMkⅡは右足を全交換へ。さっそく解体されたスペアのお出ましです。


●月面都市

ティターンズの艦隊はグラナダへ。
アーガマはアンマンへ。

クワトロの自室?が出てきます。部屋に入ってすぐ、帰還を待っていたかのようにキグナンが入ってきます。クワトロに咎められても「私にとってはシャア・アズナブル大佐です」と呼んではばからないキグナンは元ジオン軍人でしょう。そしてエゥーゴの一員でしょうが、シャアの個人的な部下といった印象です。
この場面ではその他にも、以下のような事柄が出てきます。地味ながら濃い場面です。

・部屋に入って荷物を置くなり机のセイラとの写真を眺めるクワトロ。

・クワトロの「うまく行くのか?」というのは、のちのサチワヌ奪取の事か。
・会話にアナハイムアクシズハマーンの名前が初登場。
・「アクシズ」は「ジオンの亡霊」で「だいぶ前からアステロイド・ベルトより地球圏へ向かって動いている」。
ハマーン(この時点ではハマー・カーンと呼称)は20歳になった。
グリプスが動き出した(物理的な意味で?)

どう見ても「2087年9月20日」と読める写真。

ウォン・リー(やはり初登場)からの伝言はハンバーガーショップ「マクダニエル」への招待。クワトロはマクダニエルを知りません。伝言メッセージの使用料は15セントでカード払い。


アレキサンドリア

補給物資の少なさに怒るジャマイカン。グラナダエゥーゴの影響が強いから、と考えています。実際そうでしょう。
先の戦闘で軍紀違反のジェリドは謹慎処分でやさぐれ気味。カクリコンはエゥーゴに関しての情報をつかみ(どうやって?)、ジャマイカンの許可もとって作戦を仕掛けるつもり。


カミーユとエマ

なぜか街の外をドライブしている2人。
月面には一年戦争で破壊されたコロニーの残骸が。戦争の爪痕はこんなところにも。戦後もしばらく、こうした宇宙ゴミが漂着して月面都市はかなり困っていたのではないでしょうか。

「でも驚きね。ジャブローの近くにエゥーゴを支援する街があるなんて」
「本当。港の奥のドックにも新造戦艦があるんですものね」
ここでの会話はどうもミスな気がします。
新造戦艦はアイリッシュ級の事でしょう。


●マクダニエル

マクダニエルに向かうクワトロのシーンは、彼がアーガマからアンマンへ降り立つシーンから一部流用されてます。後ろの人物が後をつけてきたように見えてしまいます。

宇宙世紀にもロールス・ロイスが!

マクダニエル外観。マクドナルドに似てませんが、キャラクターはやはりピエロ。このスペル「Macdaniel」だと発音は「マックダニエル」でしょうか。

今回しか出てこない、貴重なマクダニエル店員スタイルのヘンケン。というか表向きマクダニエルで働いていることになってるんでしょう。


ここでウォン・リー初出演。エゥーゴのスポンサー。
この「スポンサーが現場の意思にかかわらず作戦を決定する」「クワトロは反対するがやらざるをえない」というのは、そのままバンダイと冨野監督のメタファーでしょう。わざわざ物語に取り入れているのは監督なりの嫌がらせかもしれません。ウォンの計画や見通しはいかにも机上のプランといったふうに描かれます。

ジャブロー侵攻を主張するウォン・リー。もちろん彼だけの判断ではないでしょう。クワトロは「戦力差」「地球上の破壊行動は地球を汚染」「脱出の問題」を反対の理由に挙げ、グリプス撃滅を主張します。
ウォンは「グリプスは所詮連邦の手足であり、拠点のジャブローを叩かないと次のグリプスが生まれる」「ジャブローを叩けばグリプスだって補給がなくなる」「世界がエゥーゴを認めて民を一挙に味方につけられる」と反論。
「ウォンさんは出資者だと思っていたが、政治家になるおつもりで?」これはクワトロなりの皮肉でしょうが、ウォンに軽く流されます。
さらに会話に「エゥーゴの地球での支援部隊カラバ」が登場。
MSはカラバに渡してパイロットは宇宙へ帰ればいい、というウォンに「出資者は無理難題をおっしゃる」と言って席を立つクワトロ。

しかし彼はその無理難題をやってみせるしかないのです。


●カクリコンの襲撃

どこで情報を仕入れたのか、ハイザックまで用意してアンマンに来ているカクリコンと仲間達。カクリコンはドライブ中のエマとカミーユを生身で襲撃します。
エマに話しかけているあたり、この時点ではまだエマを本気で殺そうとしているように見えません。捕えようという意思があったのか、あるいは理解できない寝返りの理由を確かめたかったのか。一応はかつての同僚ですからね。
ここでカミーユは、コロニーの残骸から壊れたハロを回収します。ところでこのハロ、何気にカクリコンの銃弾を弾いています。どんだけ頑丈なんだ。



見終わってみて、後々出てくるキーワード・伏線が多数出てくることに驚きます。正直詰め込みすぎな感じです。前半のジェリドの襲撃と終盤のカクリコンの襲撃はとってつけた感じで、今話のキモはとにかく「クワトロとキグナンの会話」「マクダニエルでの会談(ウォンリー初登場)」にあるのです。

「月の裏側」というタイトルは、物理的な意味(地球から見ることのできない裏側)と、月面都市やそこに生きる人々の内情といった意味のダブルミーニングでしょう。クワトロの住まい?があり、ティターンズにろくに補給せず、エゥーゴのスポンサーが集まる月。きれいな月面都市の、しかしすぐ外にはコロニーの残骸が広がっている月。こうした奥深さが、Zガンダムをただの失敗作とはいえない魅力ある作品にしていると思うのです。