機動戦士Zガンダム第1話「黒いガンダム」

白い「黒いガンダム」のタイトルが黒くなる、という幕開けで始まる第1話。
Zガンダムは現状認知の物語であるという富野監督の発言がありますが、とにかくZガンダムのTV版については、その世界観は殺伐とした息苦しさに包まれています。前作「機動戦士ガンダム」のキャラクター達やラストにおける希望が、淡々と否定されたり、覆されていくのがこの「機動戦士Zガンダム」です。そんな今後の展開を暗示するかのようなタイトルです。



●宇宙空間

赤いMSに乗り赤いノーマルスーツを着ている池田秀一声の男がシャアではなくクワトロ大尉と呼ばれ、部下のMSを引き連れてどこかへ向かうという描写は、見ている者に「これはガンダムである」と認識させると同時に、様々な「?」を与えます。
魅力的なファーストシーンです。
ここで注目すべきはロベルトの発言です。これは後の展開の伏線と思えます。
クワトロは「その過信は自分の足をすくう」と注意します。
過信のためかはわかりませんが、実際にロベルトはこの後ジムⅡを相手に苦戦するのです。


カミーユ・ビダン

スペースコロニーのハイスクールで、柔道部を病欠と言ってサボる少年。それが本作の主人公カミーユのファーストシーンです。
ファの発言から、サボって港に行くのは初めてでないという事がわかります。
しかしハイスクールというよりは大学のように見えますね。
カードを持っていれば誰でも使えるらしいエレカ、コロニーの外壁を高速で移動するリニアカー、無重力帯での移動用に壁に用意されたグリップなど、スペースコロニーでの生活が細かく描写されています。
ここでカミーユは3機のリックディアスを、クワトロはカミーユの気配を察知。いまだにアムロララァを引きずっているようです。


●テンプテーション

カミーユが港へと急いだ理由、それは港に地球から連邦軍の連絡船「テンプテーション」がやってきていたからでした。カミーユの目当てはそのキャプテン、ブライト・ノア
ファとカミーユの会話から、ブライトの存在が「ホワイトベースのキャプテンだった人物」としてそれなりの知名度があるという事、カミーユはブライトをニュータイプであると考えている事がわかります。

ところでテンプテーションとは日本語で誘惑を意味します。
カミーユにとって憧れの人物であり、ニュータイプかもしれないブライト。そのブライトのテンプテーションは文字通りカミーユを「誘惑」します。
しかしこの誘惑の先にあるものは悲劇です。テンプテーション(誘惑)が地球から乗せてきたのはカクリコンらティターンズのメンバーであり、その迎えにやってきたのがジェリドでした。そこでカミーユとジェリドが出会ったことから、2人は互いに悲惨な運命をたどることになるのです。

この誘惑は、そもそもかつての戦争(=機動戦士ガンダム)の英雄ブライトの存在によるものです。戦いがまた新たな戦いを生む。もっとメタ的に言えば、「機動戦士ガンダム」というアニメの成功によって新たに戦いの物語(続編)が作られるという事そのものを表現しているような場面です。

ところでジェリドがカミーユの名を知るのは、直接的にはファがカミーユの名前を呼んだからなんですが、このあたりも印象的です。
ファはこの第1話では特にやたらとカミーユの名前を呼びます。


●先に手を出すのは主人公

Zガンダムにおける最も一般的でない展開は、実はラストではなくこの第1話かもしれません。
事情はともかく先にティターンズに対して行動を起こしたのはエゥーゴであり、カミーユもまた事情はともかくジェリドに唐突に殴りかかります。
前作と逆であるのはもちろん、そもそも主人公が相手にケンカをふっかけて物語が始まるというのはなかなか普通ではありえない展開です。


グリプス

前作冒頭とは異なりまず自らが潜入するシャア。
23のエアロックうんぬんのくだりは偶然とも、エウーゴが根回ししていたからとも解釈できます。リックディアスのトリモチにやられた2人組がその「研修中のコロニー公社の若造」なのかも。
クワトロのセリフ「ティターンズの秘密基地という話だ」より、グリプス(グリーンノア2)がティターンズの拠点だという事は公にはなっていないのかもしれません。しかし果てしなく空気の悪そうなコロニーですね。
ここでクワトロがガンダムMk-Ⅱ1号機の襲撃を受けます。クワトロのカメラのデザインはいかにも80年代的です。


●マトッシュ

MPに尋問されるカミーユ
カミーユが「ホモアビス大会」と「ジュニアモビルスーツ大会」での優勝者であり、実戦で使える技術があること、
エゥーゴが「宇宙に住む人間たちの独立自治権を求める運動」であるらしいというのが説明されます。
マトッシュの演技がいかにも不快で秀逸です。



「こんなことしちゃって、俺、どうするんだ」
カミーユの行動は場当たり的で、とにかく向こう見ずです。鋭い感性とハイスクールの学生としては優れた技術を持ちながら、短気でプライドが高く想像力がない。
なんとも不安な幕開けの第1話でした。